「機能強化は移転ありきではない」関賢二さん(東洋大学)

100人会議「ジェンダー平等ってな〜に?」で、東洋大学参与で白山哲理塾塾長の関賢二さんにコメントをいただきました。元文京区副区長という経験をお持ちの立場から、現状の問題点とヌエックの存在意義を話してくださいました。

高校生・大学生からシニア世代までが集まっているワールドカフェの様子を拝見しました。こんなふうに議論することがいちばん大事なことなんです。この社会にはいろいろな問題がありますが、そうした問題の解決に向けて研究するナショナルセンターが、ここ国立女性教育会館です。

今この会館が嵐山町から移転するという話、青天の霹靂がございます。移転することについて、国は、施設の老朽化や維持管理の費用が問題になっているという理由をあげています。私は総務省に長年勤務し、その後、文京区副区長として地方公共団体にも勤めました。その経験に照らして今回のことを考えてみます。そもそも、国政での政策決定と地方自治体での政策決定のあり方は根本的に異なります。国政は、憲法で規定されているように、国民から信託されて政治を担っています。地方自治は本来、住民主体のものです。国政での政策決定は、中央政府で政策を決定し、それを各地で実施するよう提示することから始まります。その政策は科学的な分析手法にもとづいて構築されますが、いちばんよく使われるのがシステム分析手法です。その考え方では、目的(ゴール)と目標(目的達成の過程における指標)を定めることが重要視されます。今回の場合、会館の移転を目的とするのか、機能強化を目的とするのかによって、政策の内容は全く違うものになるはずです。目的と手段を取り違えると大変なことになってしまいます。今この会が立ち上がり、問題提起されている理由はそこです。

移転という結論から始まってはならないということです。そのためには様々な関係者が集まって議論をして、いろいろな考え方を出し合うことが大事です。移転して機能強化するということが一つの大きなテーマになっていますが、ここでいう機能強化とはなにか。2020年に文部科学省が発した「独立行政法人国立女性教育会館の見直し内容」の1.政策上の要請及び現状の課題として「・男女共同参画に係るナショナルセンターとしての機能を一層高めるため、国内外の関係機関・団体との連携強化、特色ある調査研究、国際貢献をさらに推進すること。」とあります。これが機能強化の内容です。これは嵐山町から移転しないとなし得ないことなのか、そうではないですよね。

※2020「独立行政法人国立女性教育会館の見直し内容」https://www.mext.go.jp/a_menu/kouritsu/detail/1409066_00004.html

国の方から、移転をすすめようといろいろ理屈が出てきます。たとえば、建物の老朽化による多額の建替え費用が問題で、その額は150億円だそうです。しかし、たとえば大阪万博は、反対の声、中止した方が良いという声が多いにも関わらず、1850億円を投入して実施しようとしている。それと、男女共同参画の推進を比べたとき、国としてやらねばならないのはどちらなのか。これ一つとっても移転を是とする理屈は成り立ちません。

ナショナルセンターの移転という問題は、一つの省庁が単独で判断するレベルのことではありません。日本で男女共同参画をどうすすめるかというのは、国家として考える課題です。国際社会の中で日本がどう評価されるかということともかかわってきます。皆さんご存知の通り、ジェンダーギャップ指数において日本の順位は、昨年125位で今年度は118位、いずれにしても非常に悪いです。2021年の電通の調査によれば、社会全体で男女は平等になっていると思うか尋ねたところ、全体の64.6%が「社会の中で男性の方が優遇されている」と回答したそうです。日本社会では男女平等がまだまだ進んでいないということです。

※電通総研、ジェンダーに関する意識調査の結果を発表 2021.03.02
https://www.group.dentsu.com/jp/news/release/000398.html

日本の人権問題の現状を述べますと、1つめは、DV、パワハラ、いじめなど、顕在化した人権無視の問題、差別の問題があります。2つめ、それぞれの人の心の中に、無意識に存在する偏見、アンコンシャス・バイアスから生じる問題です。3つめ、不平等を解決するための是正措置というものがあります。構造的な不利益を補完して、結果の平等を実現するための措置、たとえばクオータ制です。ところが、その是正措置を問題視する議論をまだまだしなくてはならない現状があります。4つめ、社会の中にあるバリアによって生じる不利益を解決する手段の提供、いわゆる合理的配慮についても、まだまだコンセンサスが得られていません。

このように、国立女性教育会館が取り組むべき日本社会の中の問題がまだまだあるわけです。機能強化は、こうした問題を解決するために必要なことであり、移転ありきではないということです。

先ほどの発表を聞いて浮かんだことですが、国立女性教育会館という名称はどうなのか。もちろんそれなりの意義があって法律で定められたものではありますが、今や必要なのはむしろ男性の教育です。また、男女共同参画という言葉について。いま政策においては「共同」ではなく「協働」が使われています。立場が異なる人たちが、協力して取り組むという、社会学的に新しい概念です。「共同」では概念が古いということです。機能強化して、あらためてこの問題に取り組んでいくならば「協働」としてはいかがか。個人的な感想です。

それはともかく、この素晴らしい環境の中にある国立女性教育会館です。仮に移転するとして、これだけの規模や環境のある会館は、どこに行くとしても作れないのではないか。交通が不便だという理由も出ているそうですが、この環境と規模と引き換えにはできないでしょう。移転ありきでは機能強化はできません。

#ヌエックまるごと存続を

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